問い
刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(平成17年法律50号)70条1項は、刑事施設の長は、未決拘禁者が「自弁の書籍等を閲覧することにより次の各号のいずれかに該当する場合には、その閲覧を禁止することができる」と規定し、1号で「刑事施設の規律及び秩序を害する結果を生ずるおそれがあるとき」と、3号で「罪証の隠滅の結果を生ずるおそれがあるとき」と、規定している。
この法律規定は憲法上どのように評価できるかについて、述べなさい。
論点のながれ)
(1) 特別権力関係論の定義&現憲法での限定適用
(2) 未決拘禁者の「閲覧の自由」と「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」の合憲性確認
1)憲法19条、21条の趣旨との兼ね合い
第19条 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。
第21条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
2)憲法13条の趣旨との兼ね合い
第13条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
(3)判例「よど号」新聞記事抹消事件(最大判昭和45年9月16日)
(4)結論:「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」70条1項1号および3号の合憲である。
※ 裁判所HPより引用 : 判例「よど号」新聞記事抹消事件(最大判昭和45年9月16日)
事件番号 昭和52(オ)927 事件名 損害賠償
裁判年月日 昭和58年6月22日
法廷名 最高裁判所大法廷 裁判種別 判決
原審裁判所名 東京高等裁判所 原審事件番号 昭和50(ネ)2782
原審裁判年月日 昭和52年5月30日
判示事項
一 未決勾留により拘禁されている者の新聞紙、図書等の閲読の自由を監獄内の規律及び秩序維持のため制限する場合における監獄法三一条二項、監獄法施行規則八六条一項の各規定と憲法一三条、一九条、
二 一条二拘置所長が未決勾留により拘禁されている者の購読する新聞紙の記事を抹消する措置をとつたことに違法はないとされた事例
裁判要旨
一 監獄法三条二項、監獄法施行規則八六条一項の各規定は、未決勾留により拘禁されている者の新聞紙、図書等の閲読の自由を監獄内の規律及び秩序維持のため制限する場合においては、具体的事情のもとにおいて当該閲読を許すことにより右の規律及び秩序の維持上放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性があると認められるときに限り、右の障害発生の防止のために必要かつ合理的な範囲においてのみ閲読の自由の制限を許す旨を定めたものとして、憲法一三条、一九条、二一条に違反しない。
二 いわゆる公安事件関係の被拘禁者らによる拘置所内の規律及び秩序に対するかなり激しい侵害行為が当時相当頻繁に行われていたなど原判示の事情のもとにおいては、公安事件関係の被告人として未決勾留により拘禁されている者の購読する新聞紙の記事中いわゆる赤軍派学生によつて行われた航空機乗取り事件に関する部分について、拘置所長が原判示の期間その全部を抹消する措置をとつたことに違法があるとはいえない。
参照法条
監獄法31条2項,監獄法施行規則86条1項,憲法13条,憲法19条,憲法21条,
国家賠償法1条1項
Wikipedia 引用
特別権力関係論
特別権力関係論(とくべつけんりょくかんけいろん)とは、公法学上の概念であり、ある一定の特別の公法上の原因によって成立する公権力と国民との法律関係における法理についての理論。なお、統治権によって成立する人と公権力との関係は「一般権力関係」と呼び区別される。
理論の意義
ドイツ発祥の概念で、大日本帝国憲法下の日本でも用いられた理論である。特別権力関係 ( 独:besonderes Gewaltverhältnis ) においては、以下で述べるような特別の法理によって律せられると考えられてきたが、日本国憲法など、現行の「法の支配」(法治主義)を旨とする憲法法制下ではそのままの形では採用できないと考えられている。
「特別権力関係」とみなされる法律関係の具体的な例としては公務員の勤務関係、在監者(受刑者、未決拘禁者)の在監関係、国公立大学の学生の在学関係、国公立病院の患者の在院関係などが挙げられるが、これらの法律関係の発生は公権力の強制が契機の場合もあれば、本人の同意が前提となる場合もあり、そもそも一律な法理を当てはめることが妥当かどうか、この法理そのものの意義について疑問視する見方もある。
芦部信喜は、従来特別権力関係と呼ばれていた法律関係のうち、憲法秩序の構成要素としてその存在と自律性が認められたものについてのみは特別の規律に基づく人権制限が許されるのではないかという見解を述べたことがある(憲法秩序構成要素説)。
法原則
特別権力関係において伝統的に妥当すると考えられてきた法原則は以下の通りである。
法治主義の排除
公権力は包括的な支配権(命令権、懲戒権)を有し、法律の根拠なくして私人を包括的に支配できる。
人権保障の排除
公権力は私人の人権を法律の根拠なくして制限することができる。
司法審査の排除
公権力の行為の適法性について、原則として司法審査に服さない。
憲法での修正
日本国憲法など立憲的な憲法においては法の支配(法治主義)や基本的人権の尊重を原理原則としていることから各種の修正がなされている。以下は日本の事例により説明する。
公務員
全逓東京中郵事件[1]において、「公務員にも労働基本権が保障されるが、内在的に制約を受ける」として、一応、特別権力関係を修正した。
在監者
拘置所の新聞記事の一部を抹消した「よど号」記事抹消事件において「相当の蓋然性」がある限り、認められれば許容されるとしている[2]。
国立大学学生
例えば、富山大学事件では特別権力関係論を採用せずに部分社会論を採用しているといわれる。それに類する事件として私立大学の事件だが昭和女子大事件などがある。
ハンセン病療養所療養患者・元患者
詳細は「日本のハンセン病問題#患者懲戒検束権」を参照
かつて、ハンセン病療養所の医師や看護人他療養所職員と療養患者・元患者との間に、前者の後者に対する「懲戒検束権」が認められていたとする関係者の証言が多く存在し、これをもって、療養所内もしくは内外で両者の間に特別権力関係が成立していたともされているが、それが国や自治体他の官公署で認められていた事項だったか否かはその責任の所在もふくめ現在でも学術研究上の対立がある。
近時、最高裁は「特別権力関係」の語を用いなくなったが、単純な内部的規律の範囲を超えてされる退学などの措置については司法審査が及ぶとする修正特別権力関係説に対応する形で、地方議会や大学のような「特殊な部分社会」の内部問題は、一般市民法秩序と直接の関係を有する場合を除き、違法審査の対象外とする部分社会論を展開している(富山大学事件)。